トランプ政権における対台湾・中国政策の矛盾と不確実性は続く
トランプ政権の課題は、なんだろうか。台湾と中国に向けたアメリカの外交政策は、台湾中国関係にこれ以上悪影響を及ばさないよう、そして、米中間で紛争が発生しないように調節することであろう。 ドナルド・トランプ氏の当選から約2か月が過ぎようとしている。しかし、多くの政策分野と同じように、外交政策においても、来たるトランプ政権は、依然として不確実性と矛盾を露呈するだろう。特にトランプ政権の対台湾・中国政策においては、それがより明らかであろう。 台湾、中国、さらにはアジアに特化していない外交政策のキーパーソンたち 大統領に選ばれたトランプ氏は、外交・貿易政策に関する重要な役職を現在指名している。しかし、指名を受けた人が、上院の同意を必要とすることが言うまでもないが、アメリカと台湾、そしてアメリカと中国の関係への影響を推し量ることは困難である。 外交政策の高官に指名されている候補者たちは、ロシアや中東、イラク戦争やシリア内戦、そしてアフガニスタン戦争やテロリズムには豊富な経験と知識を持っているものの、その多くはアジアに関する経験が不足している。国連大使に指名されているNikki Halleyは、まったく外交に関する経験は皆無である。また運輸省長官に指名されており、上院のMitch McConnelの妻でもあるElaine Chaoも幼少期は台湾で過ごしたが、彼女が2009年に台湾を訪問した際には、中国語も話せず、台湾について全く知識がないことが明らかになった。 台湾や中国、そしてアジアに対する知識と関心の欠如は、トランプ氏の選挙活動中の発言からもうかがえる。トランプ氏の外交政策綱領には「台湾」も「中国」も言及されておらず、「貿易」に関する章の中で中国の貿易について批判されているだけであり、台湾については一切言及されていない。 財務省高官への被指名者と中国の密接なつながり しかし、皮肉にも、財務省長官として指名されているSteven Mnuchinは中国と関わった経験を持っている。彼は銀行家、投資家として中国に関わっており、これは中国に対して財政と貿易で厳しい政策を行おうとしているトランプ政権の意向と反している。中国との友好関係を構築しようとした人物はほかにもHenry KissingerやJohn Thortntonなどがいる。 さらには、Politicoによれば、トランプ氏はゴールドマン・サックスのナンバーツーのGray Cohnを合衆国行政管理予算局に呼ぼうとしているようである。ゴールドマン・サックスは米中間貿易への投資と友好関係の構築に取り組んでおり、これもまた、中国に対して厳しい政策を実施しようとしているトランプ氏の方針とは逆行している。 また、現在合衆国商務長官に選ばれようとしているWilbur Rossも、富豪で、熱心な中国現代アート収集家でもあり、中国の経済にとって大きなリスクにさらされるという理由でTPPを反対する発言などから見ると、アメリカの対中国貿易赤字を解決するふさわしい選択とは言えないだろう。 親台湾派の指名 加えて、台湾支持者の多くと米中間の不安定な関係を批評する批評家たちは、最近のニュースとアジア政策をうまく進めるために親台湾派の役員を採用するという噂に元気づけられてもいる。 元海兵のMatt Pottingerは、国家安全保障会議のアジア専務理事に就任するのではないかとうわさされているのだが、彼は海兵に志願する前にウォール・ストリート・ジャーナルの特派員として中国へ赴いており、2005年12月の記事で、彼は、中国を非民主主義的な国家として批判するような文書を書いている。 そのほかにも、トランプ氏は、アジアについてトランプ政権にアドバイスを提供してくれるアドバイザーとしてStephen YatesやDan Blumenthalなどの人物の起用を考えているのだが、彼らは頻繁に台湾を訪れる人物たちなのである。 さらに、中国との貿易を厳しく非難するPeter Navarroを新設の国家貿易会議のリーダーとして採用することをトランプ氏はすでに決定したようである。Peterは『チャイナ・ウォーズ 中国は世界に復讐する』というような中国との貿易戦争の勃発を指摘する本を出版している。 トランプ政権内の矛盾 完全に異なる生い立ちや経験、そして価値観を持つ人間をトランプ氏の方針に沿った外交政策の重要なポストに選出する難しさをよそに、トランプ氏は誰からアドバイスを受けるのか、また、彼が自分の意志を表明したら、それに専念するのかどうかという問題もある。対台湾・中国向けのトランプ氏の政治意志にはすでに矛盾がみられる。 中華民国総統の蔡英文氏がトランプ氏に対して大統領選挙の勝利を称賛する電話を掛けた時には、アメリカと台湾の結びつきをより強化することを臨んだ人には幸福感を与えたが、その一方で、1972年からの対中国・台湾政策を神聖視していた人々にとっては落胆する出来事であった。この電話は意図的であり、台北と北京に重大なシグナルを発した。 なぜ中国ではなくロシアに関心が集まるのか トランプ政権が直面するであろうもう一つの迫りくる矛盾は、極端に対照的な対ロシア、対中国外交政策である。ロシアと中国は親密な軍事関係を持ち、そして国際問題や地域的な問題に対して常にアメリカの政策に対抗するような同じような考え方をもっている。ロシアの大量の核兵器と高い軍事技術を除けば、中国こそが言うまでもなくはるかに重要で印象強い国である。経済と貿易の点から考えると、中国はアメリカにとってロシアより重要な国であることは明らかである。しかし、トランプ氏はロシアとの関係を発展させようとしている。 難航する米中関係と改善の余地がある米・台湾関係 アメリカの、対台湾政策と対中国政策が多くの矛盾と不確実性を呈することが現時点で予想されてしまうのは残念なことであるが、著者は、対台湾政策には長期的にみると改善する余地があると予想する。 アメリカの中国と台湾との外交関係は、半信半疑の不安定な体制でずっと形成され続けてきた。その中で、台湾は、民主主義国家の一つのモデルとして安定した発展を遂げてきた。その一方で、習近平政権下の中国は、政治的に退行し、地域的により好戦的な国家に変化してきた。中国との友好関係における利益の対価は見直されるべきである。 したがって、トランプ政権の課題は、なんだろうか。台湾と中国に向けたアメリカの外交政策は、台湾中国関係にこれ以上悪影響を及ばさないよう、そして、米中間で紛争が発生しないように調節することであろう。